そこには、またしても大神が。
 道路を挟んだ向こう側、相変わらずの女連れで歩いている。
 
__やれやれ、今日は大神デーか。
厄日だな__

 熊野は苦笑いで燈子に話しかけた。

「あーあ、アイツも結婚前だってのにさ。全く落ち着かないよなぁ、な?トーコちゃん

……トーコちゃん?」

 その時。
 熊野は、食い入るように大神を見つめる燈子の視線と、こちらを振り返った大神の視線が、確かに絡み合うのを見た_____気がした。

 カッと頭に血が上る。

「トーコちゃん!」

 彼は、ボンヤリと闇の向こうを見つめる彼女の腕をぐいっと引きよせたた。
 そして。

 往来の人目も気にせずぎゅうっと抱き締めた。

「く、苦しいっ、苦しいですって熊野さん…やっ…」 
 目の端に、くるりと背を向けて、街の方へと向こうへ消えていく大神達の姿が映る。

 彼は荒ぶるままに、暴れる彼女の後頭を抑えつけ、そのままキスを奪おうとした。

 ガチッ。

 思い切り歯と歯が当たる。 

「いっっ…」

 怯んだ隙に、燈子は熊野の懐から身体を回して逃げ出した。
 

 口を押さえ、熊野がやっと顔を上げると、燈子はもう、3メートルほと向こうにいる。

「あの…私、帰ってドラマ…みなくっちゃ……」
「トーコちゃん…ゴメ…」

 オロオロと、言い訳がましく言う彼女に、すぐに謝ろうと手を伸ばすも_____

「さ、さいならっ」
 燈子はそのまま、逃げるように去った。