④オオカミさんのプロポーズ エリート課長の専決事項

 あ~、もう!

 ヤキモキする気持ちに耐えきれなくなった大神は、盃を乱暴に卓に置くと、バッと席を立ち上がった。

「あ…あの課長。
 私、なんかマズイこといいました?」

 さっきから、大神相手にさんざんクダを巻いていた課長補佐が、顔を青くして見上げている。

「…いや別に。ちょっと一服」

 可哀想なことに、真っ青になっている課長補佐を後にして、大神は、憮然として宴席を抜け出した。

 フラフラとあてどなく歩くうち、彼はいつしか庭に面した廊下にいた。
 酒気に火照った身体に、真冬の夜気が心地よい。

 懐から煙草を取り出し、火を点す。

 吐いた煙は白い息と一緒になって、紫紺の空に溶けてゆく…

 哀しい程に澄んだ夜空は、どこか懐かしく、彼の郷里を思い起こさせた。

__冬の大三角形に、オリオンの3つ星、か。意外と覚えているもんだ。
 部活帰りに、寒い空を見上げながら帰ったっけ…
本当、何にも考えてない、シアワセなガキだったよな。

 なんと。
 空には星が見えるのに、雪がちらほら降っている。

 なんて裏腹。
 まるで今の自分のようだ___