__深夜1時。

 社長第1秘書、松嶋七緒のマンション。
 またの名を社長別宅。

 シュッ、シュッ…
 最上階の、女性の独り暮らしにしてはクールすぎるインテリアの寝室に、規則正しい摩擦音だけが響いている。

 もう深夜だというのに、部屋の主である七緒が熱心にネイルを磨いている音だ。
 さっきまでの乱れなどまるでなかったかのように、ドレッサーに腰掛け、真剣な眼差しで爪先を見つめている。
 
 すぐ隣のベッドには、これまた少し前まで、あれほど情熱的に彼女に愛を注いでいたのとは別人のように、部下の報告書(レポート)を眺める三鷹等(みたかひとし)社長。

 今晩でカタをつけるつもりなのか。
 ベッドサイドに山と積まれているそれを、熱心に読みふけっていた。

 
 と、七緒がふと手を止め、彼を振り返った。

「ねぇ、社長?」
「何だい?松嶋くん」


 
「出来ちゃった♪」


「え…」