大神は、燈子の顔をまじまじと見つめた。

__あーあ、コイツは。
 ヒトの気なんか全然知らないで、一体何が嬉しいのか、いつも楽しそうに笑ってやがる。
 ホラ今も。
 ちっさい口を精一杯開けて、デカすぎる飯に齧りついて、くるくると大きな瞳を動かしながら。

 人生舐めてるんかって、最初はイラッとしたもんだけど…
 今はその表情(カオ)に、心が疼いてどうしようもない。
 

 もし今。
 俺が急に君を抱き締めたなら、一体どんな顔をするんだろう。

 真っ赤になって怒るだろうな。イヤ、驚いて逃げ出してしまうかもしれない。

 だけどきっと、柔らかくって、温かくって____


「……でね、色んな具が入ってるんですよ。鮭に昆布に…あ、昨日の晩御飯のポテトサラダなんかも!

あれ、課長?オオカミさん?」

「え、あ、ああ。悪い」

 気が付けば、大神の手は、燈子の方へ伸びていた。
 慌てて手を引っ込めたものの、燈子はオニギリ片手にニヤニヤと笑っている。

 そうして、意味深に尋ねた。

「もしかして課長……欲しい?」
「え…」

 ドキン。
 一瞬、彼に動揺が走った。
 もしかして心を見透かされたのだろうか。

「い、いや、別にそういうわけじゃ…や、まあ、欲しくないと言えば嘘になるというか…」

 シドロモドロになる大神に、燈子はニッと笑いかけた。

「仕方ないなあ。じゃあ半分だけですよ~」
「へ?…あ、ああ」

 そっちかよ!

 燈子がイソイソとオニギリを半分にし始めたのを見て、大神は勘違いに気がついた。

 フッと自分が可笑しくなった。

 あ~あ、俺としたことが。
なんつう未練な_____
 
 彼は、具材の配分に悪戦苦闘している彼女の頭に手を置くと、ぐしゃぐしゃに撫でてみた。

「わ、何するんですかっ、ちょっと、形が崩れる…」

「よしよし、よーし。よく頑張った。
じゃあ、もっと効果がでるように、これは頂いといてやろう」 

「ああ!!」
「じゃあな。
 …でも。

 あんまり痩せなくていいと思うぞ」

 何か喚いている燈子に手を振ると、大神は再び走り始めた。

 手に入れたおむすびを一口かじる。

 最初で最後の赤野の味は、思ったとおりホワホワした優しい味がする。

 が____

 あれ、おかしいな。
 急に苦くてしょっぱいぞ。

 アイツ、塩使いすぎたな。

 いや、違う。
 ひょっとして


 俺、泣いてんのか?____