「Cher peuple さっきお前が弾いていた曲だろ。フランス語で“愛しい人”桜野はそう言う人を失ったのか?」

 だから、頭のいい人は怖い。

 全てを察する能力を持っているんじゃないかって思うね。

「・・・そうだね。その時からだった気がする。気持ちが分からなくなったのは。この曲に最も必要な想いは“愛しい人”を想う気持ちだと私は思ってる。だけど、私にはその気持ちが分からなくなってしまった。なーんて馬鹿みたいだね」

 変に重くなった空気を紛らわそうと、自嘲的な笑みを浮かべる。

こういう時にもそんな笑顔しかできない私は本当に馬鹿だ。

「そうやって紛わそうとするから気持ちを見失うんじゃねぇの?」

南はいつも何気ない言葉で答えを言うから怖いと思う。