演奏中は集中しているものだから入ってきているのに気付かなかったのだろう。

「お前、ピアノ弾けたんだな」

　ぼそりと漏らすかのように落としたその言葉は何故だか、私の心を突き刺す。

「弾けているだけ。なんの感情もないただの演奏。南ならわかるでしょ？」

　本当のピアノを知っている南なら分かると思う。

　私の演奏は、ただ楽譜通り弾いているだけ。

　例えるなら、耳コピしたまま弾いているだけ。

　確かに、覚えていた。

　だけど、あの頃とはもう違う。

「…確かにそうかもしれないが、弾く技術は俺よりも上だろ」