卒業式の日、謝恩会があるというので、学校に残った。

みんな一度着替えてから来るみたいだけど、私はメンドクサイからそのまま残った。

そんなこと、ママに聞かれたら大変だけど。


コーヒーをご馳走になりつつ、職員室から窓の外を見た。

こじんまりとした校庭の端に、先週降った雪が残っていた。


このプレゼントの山でも開けてみようかな・・・


そう思っていたら、校庭にぞくぞくと人が集まってきた。



「え!?なに・・・?」


男子生徒もいる。

あの制服は、深見と国際だ。


そして、ひたすらデカイ男。

大宮じゃん。

石丸さんもいる。


誰かがその集団に駆け寄って行く。

ノドカだ。


出迎えているのは、祐介だ。




先生たちを振り返った。

誰も何も言わない。


だけど、ニヤニヤを押し隠している。



「なんですか、アレ?」

「スポーツディじゃない」

「えええっ!?」


みんなが制服を脱ぎだした。

下は体操着。


寒そうにピョンピョン飛び跳ねている。



祐介とノドカが、こちらへやって来た。



「主将、ひさしぶり!卒業おめでとう」

「い、いや、うん。祐介もおめでとう…ってナニこれ?」

「最後のリレーやってなかったでしょ。今からやりますから」



リレー!?


私は、外へ出された。



グラウンドの向こう側にいる大宮の顔を見た。

こっちを見ない。

国際の生徒をはべらせて、ウォーミングアップしている。



「そういうこと・・・」


大宮のヤル気にみなぎった顔を見てたら、こっちも熱くなってきた。

祐介が説明する。



「主将はアンカーです。競技用の車椅子、借りてきましたから練習しましょう。

いきなりコーナーはキツイんで、こっちの直線を走ってもらいます」


・・・それで、ここ除雪してあるんだ。

後輩の子たちが、必死でやってた。

泣きそうになった。



「ありがとう」

「お礼を言うのは早いですよ」



ぐっと顔を引き締めていると、石丸さんがやって来た。

何を言われるんだろう……


春の風に揺らめく、長い黒髪を見つめた。

だけど、石丸さんはなにも言わない。



「ごめん」

思わず言った。


謝るようなことじゃないんだけど。

目を見なくても

石丸さんの喪失感が伝わってきて、

いたたまれなくなった。


「ごめん」

もう一度、言った。


ようやく石丸さんが口を開いた。


「スタートラインに立って」


穏やかな声だった。