自然と口が動き出した。



今まで、誰にも言わなかった、

誰にも言えなかったことを。




「矢倉はキヨと付き合った時に本当に嬉しそうだった。

学力コンプレックスがあったから、

キヨと付き合えたっていうのが、

自分のステータスみたいに思ってたんじゃないかな。


私はその日、試合にボロ負けして、

打ち上げにも行かないで家に帰っちゃったのね。

そしたら、家に報告に来て『考えすぎんなよ!』って・・・。


ママは離婚訴訟に負けてとっくに居なかったし、

パパは年中スペインだし、

考えないようにしようって思っても考えちゃった。



『本当に私はこの世に必要な人間なの?』って。

死のうかな……って、思う時もあった。


それが、矢倉の一言で吹き飛んじゃった。



矢倉はワガママで、自分勝手だから、結局キヨとは上手くいかなかった。

ずっとキヨの幼なじみに嫉妬して、勝手に逆ギレして……

でもその悩みを聞くふりして、本当は別れるのを待ってた。

それで、まんまと付き合っちゃった。


本当に幸せ。

キヨのことなんか、もう目に入ってないくらい。



キヨは矢倉と別れた後、

幼なじみと付き合い始めたんだけど……


その二人が見つめあってるの見て、ゾッとした。

なんて言っていいか分かんない。


お似合いなんてもんじゃない。


同一人物だったの。


矢倉もそれを見てた。

私たちは、あれこそが本当だ、本当の恋愛だって思った。


矢倉はキヨが戻れば、そういう関係になれると思ったし、

私は矢倉とそういう関係になりたかった。



……私も矢倉も分かってなかった。


人の心は、試合じゃない。

ルールがない、コートがないって。

一生懸命やれば、勝てると思ってた。



気づいたら、

キヨは、死ぬ寸前までやせ細ってコートから居なくなってた。

友達もテニスもみんな、居なくなってた」



大宮が、私の頭に手を乗せた。


「会いに行くか?」


私は首を横に振った。

「いい。幸せなら、それで」



もう一度、並んだ幕を見つめた。


私は足が無くなったけど、あの頃に比べたら色んなものを持っている。

全部、欲しくてたまらなかったものだ。




私は、正賢学園中等部出身。



力が沸いてきた。


キヨ、アメリカに行ってくるね。


「すごーい」

って、おっとり笑うキヨの姿が目に浮かんだ。