私の回りで、人や物が動き回った。

その中心で自分だけ、置き去りにされている気分だった。


足は麻酔のせいか、なんの感覚もなかった。



「うちの子が震えてる。どうにかして」

ママの声が聞こえる。


「点滴が効いてくる頃ですから、すぐに落ち着くと思いますけど、湯たんぽお持ちしますね」


目を開けて、呼んだ。


「ママ」


ママが私の手に触れた。

ジョゼも手を重ねた。


そうやって、3人でずっと黙っていた。



看護師さんが、湯たんぽを体に当ててくれた。

「痛いですか?」

「大丈夫です」



看護師さんが出て行くと、また3人で黙り込んだ。


ようやくママが、口を開いた。


「決断して…」


声が震えていた。

それっきり、何も言えなくなったようにジョゼの腕をつかんだ。

そして立ち上がると、部屋から出て行った。



ジョゼが口を開いた。


「生きていると、決断ばっかりネ。

ホントは自分はこうしたい、ああしたい…

だけど、別のこと、逆のこと、しないとイケない…

そういう時に悩ム。


だけど、決断こそが生きること。

自分で決断する。

これがなければ、ジブンで生きてないよ。

思う通りになるとはカギラナイ。

でも決めなければ、進めない。

ずっとずっと死んでると同じ」



ジョゼの顔を見つめた。

若いのに、クッキリ刻まれている目の下のシワを見つけた。


「ユリエ、足はもう治らない。すぐにでもオペしないとイケない…」



……なおらない


………もう治らない?



「……何の…オペ?」

「足とサヨナラする」

「き、切るってこと?」

「切る」


何も言えなくなった。

ただ涙がこぼれて止まらなくなった。


ジョゼが私を抱き寄せた。


「切って」


自分がまだ夢でも見ているようで、

正気じゃないのは分かってた。

だけど、正気に戻ったら、もう決められない…



「早く切って…」



ジョゼがうなずいた。

「ショウコを呼んでくるよ」

「ママに…ゴメンネって言って…せっかく、せっかくキレイに…」


ごめんね。


もう言葉にならなかった。