お姉さんはわたしの倍以上に思い出があるのだ。
『 玲斗ーーー』
そう、優しく呼んでいたお姉さんをわたしは知っている。
『貴方はそれでいいのよ。
貴方が抱えきれないことはわたしが支えてあげるからーーー
もう、いいのよ』
そう、優しく声をかけていつもお父さんをフォローしているのも知っている。
それを、そんな記憶をこの女性はいま、忘れようとしている。
お姉さんはひたすら、硬直したままだった。
わたしの漆黒の瞳を見つめたまま。
硬直している。
そしてーーーー。
「ーーーえ?」
わたしは声を発してしまう。
お姉さんの左の碧眼から涙が一滴、流れるのだ。
わたしはこの人をひどく傷つけた。
いまそう、自覚した。
わたしが思った以上に傷つけてしまったのだ。