「お待たせ」


「遅い」



彼が職員室から戻ってきた時には空は真っ黒に染まっていて、そこに綺麗な光が散らばり始めていた。


「帰ろうぜ」


「一緒に帰ってくれるの?」


「そう思って待ってたんだろ?

……最後だし帰ろうぜ」


「そうね…最後の思い出だね」


「ん…」


彼は自分の鞄を肩にかけると、反対の手を私に差し出した。



「ほら、最後だしな」


「そうだね」


彼の大きな手に自分の手を乗せると、彼の手の温もりが私の手に伝染する。


「フフっ、カイロだ」


「そのカイロももうお前専用じゃなくなるけどな」


「あ……そっか」



彼の言葉に一瞬、身体が固まる。


別れるということはそういうことなんだ。



「お前の冷たい手を温めるのも最後」


「切ないなぁ…」


「それ、お前が言う?」


「えへへ…じゃあ、帰ろう?」


「ん…」



いつもより彼の手に力が入っていることに気づかない振りして握り返す。



彼の手の温もりは気持ち良い程温かかった。