しかし、どうしても乗り気にはなれず、



『まだ勉学に励んでいたいから』


『相手の姫が幼なすぎるから』



といった苦しい言い訳をして、レイモンドは結婚を先送りにしつづけていた。




もちろん、エレティナのことが忘れられなかったのだ。




どんなに高貴な姫も、どんなに美しい女性も、レイモンドの心を動かすことはなかった。




彼を居ても立ってもいられない気持ちにさせるのは、エレティナの明るい笑顔だけだった。





その、レイモンドの愛するエレティナの笑顔が、神殿入りの決定と同時に、まったく見られなくなってしまった。




あれ以来、いつ顔を合わせても、エレティナは穏やかな作り笑顔を浮かべるばかりで、それなのにどこか心許なげな儚い表情をしていた。