「お前の勉強がはかどったら、ついていってやってもいいよ」

「本当に?」

「俺は誰かさんと違って、成績がいいから余裕あるし」

 樹の言葉が心に刺さるが、映画を見に行けるという喜びの心がそんな些細なことを気にしないようにしてくれた。

「ありがとう。頑張る」

「樹、最近お姉ちゃんに優しくなったね」

 日和がにんまりと笑う。

「バカなこと言うなよ」

 樹は大声を出し反論するが、日和の勝ち誇った顔の前に沈黙する。

 わたしと樹、日和の三人兄弟は、わたしが一番年上で、誕生日まで考えると二月生まれの日和が一番年下だ。

だが、樹は日和と仲がいいからか、なぜか日和にからかわれると、こうして反論できなくなるところがある。

彼女は頭の回転が速く、口が達者なので、巻き込まれたくないと思っている可能性もあるが。

 だが、あの公園の日の出来事から少しの間、樹の浮かべた悲しげな表情が気にかかっていた。だが、それから彼はほんの少しだけ変わった。

わたしをバカだ、お前だというのはやめないが、以前よりももっと分かりやすい優しさを見せてくれるようになった。

わたしの理想とする兄弟関係に一歩ずつ着実に近づいているのかもしれない。

 だから、わたしも頑張ろうと決めたのだ。