利香はそう背中を押してくれる。

 そうだったら嬉しい。

 わたしから樹を嫌いになることは多分ないだろう。

 彼のいいところも悪いところも、ある程度知っているし、普通の恋人のように何もかもゼロに近い状態からとは少し違うと思いたかった。

「このことには誰にも言わないでね」

「分かっているよ。約束する」

 利香の言葉に亜子も頷く。

 半田君には昼休みに話をしていた。樹の名前を出さずに好きな相手と付き合うことになったと言ったら、彼は笑顔でおめでとうと言ってくれた。

「そろそろ行かないと」

 亜子がわたしの肩を押す。

「樹君をあまり待たせるのも悪いもの」

 亜子の視線の先にはベンチに座る樹の姿がある。

「また明日ね」

 わたしは二人にお礼の言葉を綴ると、樹のところまで駆けて行った。

 わたし達は学校を出ると、家へ帰ることにした。

 付き合っていると言っても、外では普通にしようと決めたからか、今までと大きな変化はない。

 だが、心臓はいままでの何倍もドキドキしていた。