わたしの意地悪な弟

 樹は驚いたように、顔をあげ、首を横に振る。

「考えごとをしていただけだよ。帰ろうか」

 その表情には、昨日までの元気な様子は微塵もなく、疲労の色が見え隠れする。

「本当に大丈夫?」

 大丈夫と頷く樹と一緒に、昇降口で心配そうに見ていた利香に声をかけ学校を出る。
 樹は一言も口を開かなかった。

 わたしも彼に無理をさせまいと、話しかけるのを控えていた。

 玄関の鍵を開けると、樹を先に家にあげた。

 彼は玄関先で足を止める。

「姉さんはいつもと同じなんだな」

「同じって」

「今日、告白されていたのに、いつもと変わらないんだなって思った」

「知っていたの?」

「偶然聞いた」

 人気がない静かな空間だったことが、逆に聞きやすい状況を作ってしまったのだろうか。

 わたしは無言で頷いた。

「姉さんのことを好きになってくれる相手がいたんだな。よかったな。付き合うんだろう?」

 思いがけない言葉にわたしの時間が止まった気がした。