わたしの意地悪な弟

 わたしは樹のところに行くと、彼の額に触れる。少し熱が下がったような気がする。そして、そのまま頭に手を回し、抱きしめた。

 樹を好きだという気持ちよりは、一種の保護欲が働いたのだろう。だから、拒まれる可能性を一切考慮していなかった。

 自分の胸が高鳴るのが分かったが、樹の温もりが不思議と心地よい。

「姉さん?」

「大丈夫だよ。樹が元気になってくれたほうが嬉しいもの」

 久しぶりに彼に素直な気持ちを伝えられた気がしてほっと胸をなでおろす。

 その時、階下から両親の話し声が聞こえた。

 両親には旅行を楽しんでほしかったため、樹のことは言っていない。樹も言わないでほしいと懇願していたのだ。

「お父さんたちに話をしてくるね」

 樹が頷いたのを確認し、彼の頭から手を離す。

 まだだるいのか、熱のせいなのか、彼の目元が少し潤んでいた。

「もう少し寝ておくといいよ」

 彼が横になったのを確認し、一階に降りる。そして、両親に事情を説明した。

 あまり体調を崩さない彼の異変に両親は驚き、わたしはどうしていってくれなかったのかと母親に言われた。

そんなお母さんを樹のお父さんがなだめる。その後は両親が樹につきっきりとなり、その日は樹と顔を合わせることはなかった。