わたしの意地悪な弟

「何で樹の名前が出てくるの? そもそももてないし」

「樹君があれだけちなみにべったりだと、それを押しぬけて告白して来ようなんて、普通は考えられないよ」

 完璧を取りそろえた彼に、気後れしてしまうということなのだろうか。

 今朝の言葉も重なり、自ずと口元が綻んでいた。

 そのわたしの心境を悟ったのか、利香が目を細める。

「最近、樹君と何かあった? 名前を言うたびににやけているよ」

 わたしは思わず頬を抑えて利香を見る。

 彼女は明るい笑みを浮かべた。

「本当に千波は分かりやすいね」

 わたしは返す言葉もなく、唇を尖らせ、眉間にしわを寄せた。

 そうしたのは不機嫌だったわけではない。にやけそうになる気持ちを抑えるためにだ。

「何かが変わったというわけじゃないの。何かあったら話をするよ」

 厳密に言えばウソだが、客観的には間違ってはいない。わたしと樹の関係は姉と弟のままなのだ。

 彼からわたしたちの今後に関する話をされたとき、利香に伝えればいいと思ったのだ。

 利香はそうしたところもきちんと分かってくれる。