恋風吹く春、朔月に眠る君



「もう想像はついてると思うけど司君から全部聞いた。あの頃からずっと好きだったんだよね、朔良君のことが」


さっきからずっと杏子だけが話している。私は俯いて、杏子の顔を見ることもできない。重苦しい空気。ううん、そうしているのはわたしだ。


「この前一緒にケーキ食べた日からおかしいと思ってたの。聞いてもほんとのことは話してくれなかった。この前司君と一緒の時も聞きたいくせにどうかしたの?って聞いても何も聞かなかった。ずっと双葉は私に誤魔化してばかりだね」


嗚呼、全て知っていた。分かっていて、聞かれていた。ケーキを一緒に食べた日も、司と一緒にいた日も確かに杏子はどうしたの?って聞いてくれていた。ずっと、知られていた。いつから知っていたの? そんなこと聞けない。怖い。


「私に知られるのが怖かった? 司君と付き合っていたのに朔良君が好きだったなんてバレたら人気者の司君のことが好きだった人達は黙ってなかったと思う。でも、それは私も同じだと思った? 同じように最低だって言うと思った?」


静かだけど捲し立てるように勢いよく言い切った。声色が心外だと言っていた。そこまで言われて漸く私が大きな間違いをしていることに気付く。


「双葉は誰のことも信用してないんだね」


何よりも重く、深く、冷たく、突き刺さる。突き刺さったところからじわじわと凍っていくようだ。そんなつもりじゃなかった、なんて言えなかった。なんとかして言葉を紡ごうとして、何も音にならずに唇から息が漏れる。

こんな言葉言わせたらいけなかった。私だって同じように朔良に言ったのに、私が一番誰も信用してなかった。どうしてそんな簡単なことに気付かなかったんだろう。

ずっと待っててくれていた。ずっと、私が言うのを待っててくれていた。それなのに、私はこんなことを言わせる最低な友達だったんだね。


「私はこれでも一番仲が良いって自惚れてたよ。違ったんだね」


杏子の声が涙声になっているのが分かって漸く顔を上げた。杏子の頬には一筋の涙が伝っている。それに気付いた杏子はすぐに乱暴に拭う。


「今日はもう帰るね」


そう言って目も合わせずに杏子は帰っていった。待ってと言ったはずの声は息を吐き出すだけで、空気に溶けて消えていく。冷たい風が吹き抜けて、体温を奪っていく気がした。