私は何も言えなかった。喧嘩してる、なんて言って、理由を聞かれるのが怖い。連絡取れないなんて、やっぱり、私は朔良のこと、すごく傷つけた。
朔良はどうしてるだろう? 私がそうした原因なのに、心配になった。ごめんね、ごめんね、と心の中で謝る。
一度は私のこの想いを大切にしようと決めた。でも、楓の名前を聞いて、頭に血が上って、朔良にだいっきらいって言うためにに大切にしようと思ったわけじゃない。
私はやっぱり、朔良に味方だよって言って頼ってもらうことでしか朔良との関係を築けないんだ。そうやって朔良を縛り付けるしか出来ないんだ。
そんな狡い自分を誰にも知られたくない。私はとても醜いんだって改めて周りの人から突きつけられるのが怖い。
暫く杏子は私の答えを待っていたけど、やがて大きく溜息を吐いた。
「なんで私は周りからばかり話を聞いてしまうんだろうね」
一度聞いただけではその意味を推し量ることはできなかった。逸らしていた視線を杏子の方にやる。そこには遠くを見てやるせなさそうにする杏子がいた。
「私はずっと本人の口から聞きたかったんだけどな」
呟くようにそう言った杏子は漸く此方を見た。その顔はとても乾いた笑みを浮かべていた。何のことを言っているのか分からない。でも、嫌な予感がする。心臓が少しだけぎこちない動きをしてるのが自分でも分かった。
「何かあったんだよね、朔良君と」
そこで一呼吸置いた。杏子は一度口を開き、また閉じて躊躇う。でも、それは一瞬だった。勢いよく言葉は耳に飛び込んでくる。
「好きが止められなくなった?」
鈍器で殴られたみたいな衝撃だった。あまりの衝撃に唖然とする。聞きたいことは山ほどあるのに言葉にならない。杏子は困ったような、悲しそうな、申し訳なさそうな、何とも言えない顔をしていた。
杏子は何もかも全て知っている。直感的に思った。司と出会ったあの日、疑わなかったわけじゃない。司から聞いているんじゃないかって、だとしたらどこまで知っているんだろうって思ったじゃない。
その勘が間違いじゃなかっただけ。そっか、司は優しいから、言いふらしたりするようなことはしないと思うけど、杏子には話してしまったんだ。私はそれを知らずにずっと隠して、杏子はどう思ったんだろう?
軽蔑した? あの時の私の狡さを。今もこうしてずっと杏子を騙してきたことを。聞きたいのに言えない。恐ろしくて聞けない。これ以上、何も聞きたくない。


