恋風吹く春、朔月に眠る君



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「......て............こを........けて......」


風が鳴るような音の向こうで小さく声が聞こえる。でも、それがなんと言っているのか分からない。


「......きが......てが............にな......」


耳を澄まして聞いているのに、声は不透明で音の羅列のようだ。必死に伝えているような気がするのに届かない。もう少しで聞こえる。そう思った時、目が覚めた。


「なんか、変な夢を見た気がする......」


目が覚めてすぐの虚ろな目を閉じて、夢を思い出す。とても重要なことを伝え............。


「双葉ー! 今日は朔良と出かけるんでしょ。早く起きないと時間なくなるよ」


思い出せそうな気がした時、楓の声が部屋の扉越しに聞こえた。そうだ。木花と話すことばかりに気を取られて気付いていなかったけど、金曜日の今日は朔良とお花見に行こうと約束していた日だ。一気に目が覚めた私は出かける用意を始めた。

約束していた時間より早くインターホンが鳴って慌てる。急いで用意しているけどまだ用意が出来ていない。それを察してくれた楓が玄関に出てくれた。


「いらっしゃい。双葉まだだから、ちょっとだけ待って」

「ちょっと早く来たから仕方ないね」

「暇でしょ。リビングで待ってて」

「ありがとう」


洗面所から二人のやり取りが聞こえる。後ろで靴を脱いで慣れたように廊下を歩く音が聞こえたからリビングに向かったのだろう。お母さんにおはようございますと言う声が聞こえた。髪を整えた私もとりあえずリビングに向かう。


「朔良ごめん、遅くなって」

「いいよいいよ。そうだ、楓も一緒にお花見行かない?」

「は? 何言ってんの? 二人で行ってきなよ。私人混み嫌いだから」


面倒そうに断るのを見てホッとした。なんでホッとするんだろう。それより朔良も朔良だ。いきなりどうしたんだろう。


「いきなりどうしたの? 楓いつも行かないのに」

「そうそう、もっと言ってやってよこの気分屋に」