恋風吹く春、朔月に眠る君



「おなかすいたなあって」

「なんで俺の顔見ておなかすくの」

「この前奢ってもらったから?」

「今日は奢らないからね」


他愛のない話をしているとすぐに駅について、そのまま電車に乗った。電車に揺られながら陽が落ちる瞬間を眺めていた。夜の世界がやってくる。小さな明かりをいくつも集める景色が流れていくのをじっと見つめる。そんな私を黙って朔良は見ていた。その視線には気付かない振りをしておいた。


 駅からの道を二人静かに歩く。行き交う人達は皆、家路を急ぐように見えた。空では鴉が鳴いている。4人組の小学生が楽しそうに騒ぎながら駆けていく。それを横目で見送り前を向くと、見知った顔を見つけた。


「......杏子?」


私の声が届いたのか、杏子が振り返る。と同時にもう一人近くにいた男の子が振り返った。よく見えていないまま声をかけたのが悪かった。


「お帰り。今日は二人とも遅かったんだね」

「今日は用事があってね。朔良は先に帰っていいって言ったんだけど」

「双葉と帰りたいから待ってたんだよ」

「さっきそんなこと言わなかったじゃん」

「うーん、だって、照れるから?」


あまりに適当なことを言うから朔良の頭をチョップした。照れるからってなんだ。それも疑問形で聞いてくるなって感じだ。『地味に痛い』と頭を抱える朔良のことは無視した。

冷静に返した私の声に違和感はなかったはず。隣にいる彼を見たくない。でも、流石に声を掛けないわけにはいかない。


「司も久しぶり。杏子と仲良かったんだね」


司とはあれから気まずくて、三年に進級するとクラスも違ったから碌な会話をしないまま卒業した。だから、これが久々の会話。何を話していいか、向こうも分からないんだろう。表情が気まずそうだ。


「......ああ、俺の弟と杏子の一番下の弟が同い年で今年同じクラスになってさ。仲が良いから交流があるんだ」