恋風吹く春、朔月に眠る君



それから司とは別れた。ずっと好きって何か考えていた。その時に朔良が桜の木の下には死体が埋まっているという話をして、聞かなかったことを後悔した。

私はいつも朔良の変化には敏感だ。楓のことはそんなことがあっても分からなかった。噂話でしか気付くことが出来なかったのに、朔良のことは注意深く見てて、何も言わなくても気付くことがある。そうして、何度も好きだと気付く。司も同じように私のことが好きだったから、私が本当の意味で好きじゃないって言ったんだと漸く気付いた。

好きだと気付く度に、司にどれだけ想われていたかを知って息苦しくなった。誰にでも優しい司に対する想いだって恋だったって思いたかったのに、誰にでも優しくて、人を引っ張ることが出来る信頼の厚い司に憧れていただけだった。あんな風にいられたらきっと、私は二人の隣に堂々と立てる。優しさに甘えて司の向こうに見ていたものは朔良の隣にいる自分だった。

でも、朔良は楓のことを見ていた。だったら、私は言わないでおこうと思った。司のことを思い出すだけで苦しくて、悪者になりたくない。その上に朔良は楓のことが好きで、それなら消えてしまった方がいいと思った。


「こんなにずっと朔良のこと好きでいるつもりなんてなかったのにね」


今までの話をずっと黙って聞いていた木花と目が合う。長い長い話だったのに、木花は疲れた表情を見せることなく、ずっと真剣に聞いていた。


「簡単に好きを消せるなら、苦労しませんよ。双葉さんも、そのお話の彼も」


木花は厳しい。痛いところついてくる。誤魔化すことを許してくれない。


「悪者になりたくないから、彼は他の人が好きだから、黙っていようとして、それでも消えなかったそれを本当に言わなくていいんですか?」

「だって、朔良と楓ってお似合いなんだよ。私、ずっと自信がないんだ。二人の隣にいていいのか分かんないの」


悪者になりたくないから誰にも言わなかった。朔良は楓が好きだから言わなかった。自信がないんだ。努力すれば報われる、なんて嘘。努力しても届かない世界がある。双子じゃなかったら、幼馴染じゃなかったら、二人とは違う世界に生きる人間だったのかなって思うんだ。

だから、中学に入って広がる距離に何もできずにいた。寧ろ、その方が私にとっていいんじゃないかって、その方が私はずっと楽だろうって浅はかで愚かな自分が顔を覗かせていたから。考えないようにとしていただけで、私はずっと劣等感の塊だったんだよ。