恋風吹く春、朔月に眠る君



あれからあっという間に年末がやってきて、年が明けて暫く経った。相変わらず楓は一人で行動している。楓を見つける度に手を振るんだけど、呆れた顔をされる。それでも手を振り返してくれるから楓は優しい。

朔良も普通に接してくれているようだ。随分とフォローもしているみたいで、付き合ってるんじゃないかと噂される始末だ。外野というのはすぐに面白おかしくしたがる。


「楓どこにいるんだろう?」


今日は体育があるのに、体操服を忘れてしまった。楓のクラスも体育があったはずだから貸してもらおうと思ったのに、楓の姿が見つからない。

この昼休みが終われば体育の授業だ。それまでに見つけようと思ったけど、これは至難の業になりそうだ。校内中をぐるぐると回るけど見つからない。

学年集会で集まるような多目的ホールを抜けた先、視聴覚室と理科室しかない場所から微かに声が聞こえた。それは私と同じ声をしていた。


「あんた何考えてるの」


明瞭に、私の耳へと届ける。私に向けられたものではない言葉。理科室の扉が開いていた。


「好きだからだよ」


鈍器で殴られたような衝撃だった。意識を吹っ飛ばされそうになるのをぎりぎりで抑える。学校で楓が話せる人なんて限られてる。親しさを感じさせる物言いと、声変わりのしていない男の子にしては柔らかく高い声。これは朔良のものだと気付くのにそう時間はかからなかった。


「楓のことが好きだからだよ」


とても良く響く。頭の中に反響する。楓のことが好き。心臓が痛い。なんで私はこんなに動揺しているんだろう。別におかしいことではないはずだ。ずっと一緒にいるからこそ、それが恋に変化もする。分かっているのに解りたくない。心が塗り潰される。全ての色が混じって、濁して、黒になる。深淵を覗き込む。真っ黒の中の自分が見える。怖い。怖い。怖い。楓が息を吸い込む音が聞こえる。嫌だ。聞きたくない!