「双葉が心配しなくても私は平気だからね」
不意に掛けられた言葉はとても寂しかった。朔良にも私にも平気だと言うのか。あれだけぼーっとするほどに楓は悲しい思いをしているのに、平気なわけがないだろう。
「強がる癖やめたら? 双葉はクラス違う上に場所も遠いからいちいち気にしてたら大変だろうってことは分かるけど」
「強がってないし。私は一人でも平気なの。元々その方が楽だし」
「勝手に言い寄ってきたやつが悪いのに、あの意地悪な女の思惑通りに動くなんて馬鹿だね」
朔良にしては辛辣な物言いだと咎めようとしてやめた。怒ってるんだ。凍てつくように冷たい視線が物語っていた。
「ねえ、二人で話を進めないでほしいんだけど。私まだ何も聞いてないんだよ。朔良は知ってるのかもしれないけど、あの噂が流れるまでの顛末を私は楓の口から聞きたいと思ったから一緒に帰ってるんだよ」
私がその噂を聞いたのは部活が休みになった三日前。楓のことだから、あまり聞かれたくないかと思って黙っていた。でも、それによって楓は独りで行動するようになって、家でも明らかに私のことを避けていた。
一緒にいてくれた朔良には話していたのかなと思うと、心がちくりと痛む。私はいつも出遅れてる。
「......男の方から言い寄ってきてたの。ずっと断ってたんだけど、それを彼女に知られて私のせいにしたみたい。大勢いる前で取り巻きと一緒に責め立てられた結果がこれよ」
「なにそれ、気持ちわる」
「私だって気持ち悪いよ。言いがかり以外の何物でもないし」
「あっちが発言力強いから、理不尽と言えど人が離れていくのは仕方ない。でも、双葉と俺は関係ないって傍にいるんだ。それを拒むのは違う」
此方を見ずに前を向いたまま言い切る姿を見て、初めて朔良のことが頼もしいと思った。
「そうだよ。聞かれたくなくて私のこと避けてたでしょ? 私ももっと早く話してほしかったよ」
「ごめん。双葉は心配性で人の世話焼くから。人のことばっかりで自分のことができないわけじゃないけど、自分の首絞めてること多いでしょ。だから、あんまり心配かけたくなくて」
正論過ぎてぐうの音も出なかった。楓が心配で考え事してることが多かったから、司も気遣って話しておいでって言ったのに馬鹿だ。


