恋風吹く春、朔月に眠る君



司と付き合ってすぐに大きな花火大会があった。付き合う前なら誘うなんてことできなかっただろう。もしかしたら大人数で行くことができたかもしれないけど、二人きりで行ける方がずっといい。

久々に出してもらった淡い水色に朝顔が咲く浴衣を着るために、随分と早くから準備していたから約束の時間より余裕があった。早く時間が来てほしいのに、そういう時ほど時間はゆっくり流れるものだ。

迎えに来るから家で待っててと言われたけど、外で待っていたくなって、玄関を飛び出した。司が来るであろう方向を見て、まだ人影もないことを確認する。それを何度も繰り返してしまうくらいに私は浮足立っていた。

向かいの家の玄関の扉が開いて、出てきた朔良と目が合う。私の姿を見た朔良はとても驚いた表情をしていた。


「浴衣着てどうしたの?」


問いつつ、朔良の家の門まで歩いてくる。私はいつもより小さな歩幅で朔良の元へ駆け寄った。


「司と花火大会に行くの。司が迎えに来てくれるんだけど、待ちきれなくて少しだけ外で待っていようかなって」

「そうなんだ。付き合ってるの?」


直球の質問に狼狽える。今まで付き合ってる人がいてもうんと一つ頷いてそれで終わりだったのに、気恥ずかしさがあった。


「......うん、付き合い始めたばかりなんだけどね。それより朔良はどこへ行くの?」

「俺は塾だよ。夏期講習いっぱい入れられて面倒なんだよね」

「うわあ、それはお疲れさまだね」


茜色の空が私たちを包む。それの影になっているせいか、朔良の顔が暗い気がした。きっと、お父さんとの確執のせいだろう。去年からお父さんは県外に単身赴任らしくて、小学生の時のように家に来ることは減った。そのお陰か、家に寄りつくようになったみたいだけど、それでも根本的な解決が成されたわけじゃない。


「あんまり無理しないでね」


手を伸ばして頭を撫でると、朔良が力なく笑った。やっぱり、無理していたのかもしれない。