恋風吹く春、朔月に眠る君



「おい、双葉っ.......!」


腕を掴まれて引き寄せられるのが分かった。瞬間、車が通って追いかける風が私の髪を揺らした。


「あっぶなー。信号赤だぞ」

「ごめん、ぼーっとしてた」

「やっぱ体調悪いのか? ほんと無理すんなよ」


顔を覗き込まれる。掴まれたままだった腕のせいで身体も近い。身体の中に響く音が大きく、早くなる。血が沸騰するみたい。水が溢れる音がした。


「すき......」


音になって、言葉としてその意味を捉えた時、勢いで口走った自分に後悔した。司が驚く顔がめいっぱいに映った。沈黙が流れる。それが耐えられなくて今来た道を引き返すように逃げ出した。つもりだった。


「なんで逃げんの?」


腕を掴まれていたことを忘れていた。真剣な瞳が私を捉えて逃がさない。


「自分でも言ってしまったことに吃驚してどうしていい分からなくて......ごめん......」


最後の方は司に届いたかも分からないくらいに途中から声が小さくなってしまった。こんな言い訳が言いたかったわけじゃない。もっと伝えるべきことがある。ここまで言ってしまったなら、きちんと伝えよう。顔を上げて、司の目をしっかり見た。


「司が好きなの。付き合ってください」


震えて情けない声だった。この時、今まで付き合った二人を思い出した。こんな思いで二人も言ってくれたのかもしれない。私の態度、酷かったんじゃないかって漸く気付いた。


「ああ、俺も好き」


白い歯を見せて告げたそれが信じられなくて、なんて言ったのかすぐに理解できなかった。


「うそ......」

「そこで嘘吐く必要ある? 双葉は嘘じゃねえんだろ」

「そりゃそうだよ!」

「じゃあ、俺の好きも信じてよ」


一度目は理解できなかった好きが砂糖菓子のように溶ける。甘ったるいそれが広がるのを噛み締める。小さく頷いて、『ありがとう』と零すと抱きしめられた。煩いくらい早く大きくなる心臓の音が聞こえるんじゃないかって恥ずかしかったけど、司の心臓も同じくらい早く聞こえたからどうでもよくなった。