恋風吹く春、朔月に眠る君



小学校も高学年になってくると、ピアノが上手い朔良と絵でよく賞を貰っている楓は学校ではちょっとした有名人だった。みんなで合唱するたびに朔良は重宝されていたし、度々尊敬の眼差しを向けられていた。


「あら、今日も三人で遊んでるの? 仲が良いわねえ」


珍しく三人で外に出かけた日、近所のおばさんが声をかけてきてくれた。よく見かけると挨拶をしてくれる良い人。


「そうなんです。今日はお出かけして帰ってきたところなんです」


元気よく答えると、いつもの愛想の良い笑顔で言われたの。


「そう、楽しそうねえ。あ、そうそう、楓ちゃんまた賞貰ったんですってー? すごいわね。朔良くんはすごくピアノが上手いって聞くし、一度聞いてみたいわあ。双葉ちゃんもいつも元気が良くて私、お話するの楽しいのよ」


何気ない一言だった。別におばさんは私を貶めるつもりで言ったんじゃない。私とお話するのが楽しいと言ってくれた。それなのに、何かしっくりきてしまったような言葉だった。

勿論、二人が努力をして、素晴らしい結果を出していることなんて私が一番知っている。でも、私には何の取り柄もなくて、普通の人よりはスポーツが得意、くらいだ。そんなのどこにでもいる。もしかして、私は世界が違う人と一緒にいるのかもしれないと、なんとなく思った。


「おばさん、そんなにすごいことじゃないですよ......」


どう言っていいか分からず恥ずかしそうな楓をぼーっと見ていた。朔良が『良かったら今度遊びに来て聞いてください』と愛想良く返すのを聞いて、そこで漸く我に返った。


「楓も朔良もすごいですよね。私の自慢です」


いつもと変わらないテンションでそう返して、すぐにおばさんとは別れた。おばさんだけでなく、他の人も同じようなことを話していた。みんなおかしなことを話しているわけじゃない。


でも、普段賑やかな人達とつるむ私と物静かなグループにいる二人は、不思議な組み合わせだよねと、言われることも多くなった。少しずつ、少しずつ、胸を張れるものがない私は自信がなくなって、二人の傍にいていいのかよくわからなくなっていた。