恋風吹く春、朔月に眠る君



三人で遊ぶ時は専ら音楽で遊ぶことが大半だった。二人がピアノを弾いたり、流行りの音楽のダンスを真似て踊ったり、お父さん愛用のオーディオプレイヤーで音楽をかけっぱなしにして好きな音楽のことを話した。

朔良はドビュッシーの月の光とかシューマンのトロイメライとかクラシックばっかり聞くから私にはすごく眠い。音がいっぱい踊ってて手が何個あっても足りなさそうって言ったら楓に馬鹿って言われた。

でも、楓もクラシックは分かんないって言ってたから、朔良がませてるだけだと思う。きっと、小学生にはとても遠い世界なんだ。私には一生分かる気がしないけど。


「ねえねえ、さくら。なんかひいてよ」

「えーっ、そう言っていつもひいてるけど、ふたばすぐ寝ちゃうじゃん」

「子守歌にぴったりなんだもん」


嫌そうな顔をしつつも『しかたないなあ』って言って弾いてくれる。朔良は優しい。家のリビングに置いてある家具で一番目立つ黒を塗りつぶしたようなアップライトピアノ。お母さんからのお下がりだけど十分立派な音を出すそれは、出番だと言わんばかりに光に当たってきらきらと輝く。

パカッと蓋からこんにちはをした鍵盤の上に朔良の手が置かれる。一つ、音を奏でるとそこには朔良の世界があった。私は朔良が弾いてる横でピアノを聞きながらうとうとする時間が一番好き。


「今日は外に遊びに行かなくてよかったの?」

「いいのいいの、今日は二人と遊ぶ日なの。それよりかえではなにを描いてるの?」

「できてからのお楽しみ」


楓は私が肩を頭に乗せて眠りこける未来を分かっていながら、横にいて絵を描くんだ。だから、利き手が使えないことにならないように、左隣に座るくらいは考えてる。楓が絵を描く姿をぼーっと見て完成していく過程を見るのも好きなんだよ。

それが私達の幸せの時間。少なくとも私はそう思っていた。好きなことが違っても、二人が横にいるだけで幸せだったの。