恋風吹く春、朔月に眠る君



「ずっと傍にいるんです。消えるわけがありません。想いは膨らむばかりです。抱えきれなくなった想いが今にも爆発しそうでした。双葉さんは一人でそれをどこに持っていくつもりなんでしょうか?」

「何言ってるの。私にはそんなものないよ」

「あの時、音楽室の前で座り込んで泣いていたみたいに、私にも、彼にも、誤魔化し続けるんですか?」


喉がヒュっと音を立てた。まさか、絶望していたあの瞬間も木花は見ていたというのか。


「すみません。追い込みたいわけじゃないんです。でも、見たところ誰にも話していませんよね。どうして、それほどまでに頑なに気持ちを押し殺すのでしょうか?」


観念するしかなかった。見透かされている。それを分かっていても否定し続けるつもりだった。知られていても、深く突っ込まれなければ誤魔化してしまおうと思ってた。無理だと分かってても、否定したかったから。


「だって、言ってしまったら真実になってしまうでしょ?」

「なんで真実になるのが嫌なんですか?」

「壊したくなかったから。幼馴染でいたかったから」


切実な想いだったはずなのに、言葉にするととても薄っぺらく感じた。雲が隠れたのか窓から日が差すこともなく、肌寒い。


「私ね、すごく狡いの。醜くて汚いの。付き合っていた人にね、『お前が好きなのは古館だろ』って言われたんだ。最初は全然意味が分からなかったんだけどね、それがきっかけで別れてから実感した。

.......だからね、なかったことにしたかった。裏切者だと思いたくなかった。悪者になりたくなかったんだよ」


ずっと言わなかった理由。気付いたきっかけが当時付き合っていた人だったなんて、どうしていいか分からないじゃない。何度も否定して、何度も実感する。それが恐ろしくて、逃げたくて、なかったことにした。