恋風吹く春、朔月に眠る君



「懲りない彼に折れた私は彼の前に姿を現しました。すると、『一人だと言ってすみませんでした』と謝られました。そして、満足したらしい彼は去ろうとしました。不思議でしょう? 私が失礼な態度を取ったのに、謝ることが目的で毎日私に会いに来ていたなんて」

「どうしてって聞いたの?」

「ええ。『後で貴女の姿を見て、この美しい桜の木が貴女が一人ではない理由だと知ったからです』と言われました。意味が分からないでしょう? 理由を知って、それが謝る理由になるでしょうか。関わらないという選択肢はなかったのかと聞くと、『それは楽しそうに過ごしている貴女に失礼ですから』と言われました。

皆が恐れ、怯える幽霊です。視えるということはそれだけで災いを呼ぶこともあります。視える人は出来るだけ関わりたくないでしょうし、偶然視えてしまった人も関わるなんてことはしないでしょう。でも、彼はそれを吹き飛ばすような感覚を持っていたんです」


最初に用心しろと言われたのは、それが理由だったのかと思った。私は確かに不用心だったのかもしれない。


「私も大丈夫って言っちゃった」

「ふふっ、いいんですよ。彼も同じようなことを言いました。だから、仲良くなりたいと思ったんです」


ストレートな言葉が私に衝撃を与えた。頭がショートするような感覚を覚える。でも、すぐにそれは動き出して、何も考えずに言葉が飛び出た。


「私も.......! あの時、もっと話してみたいなって思ったんだよ。仲良くなれるかもしれないって思ったんだよ」

「そう言って頂けて、私は幸せ者です」


ありのままの素直な気持ちが伝わってくる。教室に差し込んでくる陽の光が暖かった。


「それがきっかけで、気になった私が彼に近づくようになりました。彼はにっこりと笑って、二人きりになるとたくさん話をしてくれました。本も彼の隣から覗き込んで読んでいたくらいです。彼のことが知りたくて知りたくて仕方なかったんです。

好きになるのは自然な流れでした。でも、私は幽霊です。生きてる人間と恋なんてできません。ずっと、その想いを抱えたまま、時が過ぎました」


そこまで言われて意図が分かった。これから何を言われるのかも分かった。このとても長い前置きはこのために用意されていたのか。