恋風吹く春、朔月に眠る君



次の日、言われた通り、部活が終わって木花の元へと向かう。朝も木花に会って話したけど、部活の後に何をするのかは笑って『秘密ですよ』と言い、教えてくれなかった。中庭へと足を踏み入れると、皆が校舎からグラウンドへと向かう一直線の大きな道の脇に木花が立っていた。


「待ってました。行きましょう」


周りに気付かれないように小さく頷く。木花の用事は校舎にあるらしい。朝のうちに部活が終わったら校舎へ移動するからついてきてほしいと言われた。

一緒にいるのに敢えて黙って歩くことに不思議な感覚を覚えながら、校舎の中に入る。昇降口で靴を履き替えると、木花がまた歩き出した。あまり、桜の木の下の近くから離れる姿を見たことがないけど、校舎の中は自由に歩けるようだ。何度も来たことがあるのかもしれない。迷いのない足取りで1階の廊下を歩いていく。

春休みの学校は静まり返っていた。日が当たらないこともあって、空気が冷たい。運動をして上がっていた体温が下がる気がした。廊下の突き当り、一番奥の教室の前で木花は止まった。


「ここです」

「ここって、空き教室?」

「そうです。入りましょう」


躊躇いもなく、ドアをすり抜けていく。私は戸惑いつつもドアを開け、中に入った。


「好きなところに座ってください」


好きなところって、まるで自分の家のようだ。随分と長い間ここにいるみたいだから、自分の家みたいなものなのかもしれないけど。

これから何をするのか、状況を飲み込めないまま事が進んでいく。でも、言われたとおりにするしかない私は適当な席を選んで座った。その1つ前の机に彼女が座る。

その身なりと雰囲気、言葉遣いと違ってお行儀が悪い。でも、今までの突飛な行動を思うとかなりのお転婆だ。そう思うと納得もできて、何も言わなかった。


「今日は私の昔話をしましょう」

「はい?」


1時間欲しいとお願いされて、いつもと場所まで変えて、その結果が昔話をしましょうってどういうことだ。木花の行動は読めないことが多い。