恋風吹く春、朔月に眠る君



「そうなると、もう一つ興味深い謎が浮かび上がりますね。彼は桜の木の下に埋まる死体なのか、それとも桜の木そのものなのか、どちらなのでしょうね?」


疑問ばかりが宙に浮いてくるくると回る。そこへ投げ込まれた謎がまた一つ、私の思考を置いていく。難しくて、頭が爆発しそうだ。


「混乱させてしまったようですね。何はともあれ、人の心は推測では真に理解出来ません。もし知りたいのであれば、やはり聞くのが一番だと思いますよ」


伏せて考え耽っていた私の思考が停止した。ゆっくりと彼女の瞳を見る。やっぱり、そこには全てを見透かされるような瞳があった。そこに映る私の顔が動揺の表情をしているのが分かる。

私が話したことを零さずに聞いてくれるものだから、うっかり口が滑ってしまった。聞きたいと思っていたこと、気付かれた。


「そうだね」


形だけの同意の言葉が溶けていく。木花はとても不服そうだった。私が聞けないことまで見透かしている。どうしてだろう。木花には上手く嘘が吐けない。

逃げるように視線を逸らした先で時計を見つける。そろそろ行かないといけない時間だ。


「私、そろそろ行かないと」

「ええ、部活頑張ってください」

「うん、ありがとう。また明日ね」


スポーツバッグを持って立ち上がる。そして、去ろうと一歩踏み出した時、『双葉さん』と声をかけられた。


「どうしたの?」

「一つお願いがあるんです。明日、部活が終わった後、1時間ほど時間を頂けませんか?」

「いいけど、どうしたの?」

「それは明日のお楽しみです」


ふふっと悪戯な笑みを浮かべる。また、何か企んでるな。明日は驚かされたりしないように用心しよう。


「分かった。じゃあね、ばいばい」

「さようなら」


今度こそ、木花をお別れをして部活へ向かった。朔良には帰りに、明日は用事があるから待てなかったら先に帰ってと伝えておこう。