「話を戻してしまいますが、彼が血液を禍々しく猛毒だろうと表現したのはとても興味深いですね」
「興味深いってどういうこと?」
生憎、本に興味のない私には興味深いという感覚が分からない。それに、朔良が読む本は大体難しくて頭が痛くなるようなものばかりだ。きっと、その作品も難しいと思う。
「『桜の樹の下には』という作品は、桜の美しさに不安を覚えた語り手が死体が埋まっているからだという答えに行きつくとこから始まります。冒頭の桜の木の下には死体が埋まっているという言葉はとても印象に残るでしょう?」
「うん、ゾッとする。都市伝説として信じる人がいるのは、背筋が凍りつくような怖さがあるからだと思う」
「そう、美しさと醜さ、生きている桜と死んでいる人が混在しているんです。それがとても生々しく、畏怖や凄惨さを感じるお話なのです」
美しさの中に恐れ戦くような凄惨さがあることを感じるお話。美しい薔薇には刺があるとかと似てるものがある気がする。
「でも、それなら、なんで血液が猛毒だと思ったんだろう?」
「解釈は読む人がするのものです。だから、これが正解というわけではありません。ですが、不思議ですよね。詳しく聞いてみたいくらいです」
「......私がこの話を覚えていたのは桜だからなんだ。名前が一緒でしょ。だから、印象に残ってたんだけど、その理由はもう一つあって、朔良が何か言いたいことを飲み込んだ気がしてたの」
あの時、適当に流して後悔したのは飲み込まれた言葉がずっと違和感だったからだ。パズルのピースを一つ失くしてしまったみたいに、その空白が主張している。
「では、彼自身と誰か、あるいは何かを桜と死体を通して視ていたのかもしれませんね」
朔良と何かをその話の中に視ていた。何かって何だろう? それが私に言おうとした何かだったのだろうか。


