だから、当然のこと。私が手を伸ばさなければ、朔良が私を頼ることはない。伸ばされた手がなければ楓のとこへ行く。それだけなのだから。
今度こそ、ちゃんと完璧にいつも通りを演じよう。心配なんてさせないように、襤褸が出たりしないように。
「楓に怒られなかった?」
「怒られた怒られた。『私は暇じゃないんだ、貧弱者。意気地なし。ろくでなし』って」
「容赦ないね。いつものことだけど」
「うん、面白いよね。あれだけ罵倒しておいて、塾までずっと一緒にいても追い返さなかったし」
とても楽しそう。目線を上げて、遠いところを見ている朔良は昨日のことを思い出しているのだろう。口許は口角が上がっている。テレビで流れているドラマのように他人事な私の思考に寒気がした。
「あ、そうだ。桜見に行こうって話なんだけどさ、そろそろ見頃でしょ」
学校が近いことを知らせる桜並木。それを見た朔良が思い出したように話を切り出した。
この桜並木も少し前までまだ咲いてなかった蕾が花開いて、太陽に輝く。仄かな桜の匂いが鼻腔を擽る。そういえば、もう満開に近いとテレビのニュースも言っていた。今週末が一番見頃らしい。
「金曜日から4日間、部活休みって言ってたよね。土日は混むだろうし、金曜日に行かない?」
どんよりと曇った心が一筋の晴れ間を示す。やっぱり私は単純だ。朔良の言葉一つ一つに一喜一憂して馬鹿みたいなのに、浮足立つ心は止められない。
「いいよ」
「よし、決まり。細かいことは後でメッセージ送るよ」
「分かった。楽しみにしてるね」
丁度話がまとまった時、学校の校門が見えてきた。それからいつものように昇降口の前で朔良と別れて、私は中庭に向かった。
中庭に立ち寄るのはもちろん、木花に会うため。既に日課になっているのが不思議だ。
「木花、いるかな?」
人に聞かれると、流石に変に思われるから小さな声で聞いた。すると、視界の右端にやけに白い腕が現れた。
「わっ?」
飛び退くと、後ろにいたらしい木花が目の前にいた。
「おはようございます。幽霊らしく、驚かせてみました」
成功して満足したらしい木花は満面の笑みを浮かべた。私が見た中で今までで一番の笑顔が人を驚かせたことなんて、性格に問題がありすぎる。恨めしくて睨むも涼しい顔をされた。
「私が何もないとこで驚く変な人に思われるでしょ」
「それはそれで面白そうですよ」


