恋風吹く春、朔月に眠る君



「それで、お父さんとはどうなの?」


もうすぐ満開と言えそうな桜並木道を二人歩く。傾く太陽が作る私達の影は変に伸びていておかしな形。


「どうって、言われてもね。相変わらず睨みつけてくるだけで会話も何もないよ。

元々、単身赴任なんて言っておいて、別居も同然だから。寧ろ、なんで帰ってきたのかも分からないよ」


溜息を吐く音が聞こえて朔良の方を見た。昔のように泣きそうな顔をするでもなく、疲れきって諦めたような顔を見ると私の方が悲しくなった。

私の家族はそれなりに仲の良い方だと思う。喧嘩することもあるけど、ずっと話さないことなんてないし、そんなに冷めきった関係じゃない。至って良好な関係だ。

だから、朔良の気持ちを完全に理解できるわけじゃないけど、家族が仲悪いって想像するよりずっとずっと息苦しい。

家にずっと居場所を見つけられない朔良を見てると、いつか朔良がいなくなりそうで怖かった。瞬きの間に消えて一生見つからない気がして、時々忍び寄る恐怖に戦くのだ。


「そっか。ずっと帰ってきてなかったのに、どうしたのかなって思ったんだよ。ごめんね。何もないならいい」


何もないなら良いわけじゃない。でも、私にはどうすることも出来ない。これが、ずっと私の中を巡る葛藤。


「ありがとう。双葉は優しいね」


小さく微笑む朔良が痛々しい。なんで、ありがとうなんて言うの。私は何もしていないのに、ありがとうなんて言ってもらえることしていないのに、朔良はいつでもそう言うんだ。


「優しくないし、ありがとうなんて言われることしてない」

「ははっ、素直じゃないね」

「朔良が買い被り過ぎなだけだよ」

「そんなことないよ。双葉は俺に甘すぎるくらい優しいよ」


得意げに笑う朔良に心臓が一際高鳴った。朔良は狡い。気がないくせにそんなこと言わないでほしい。早鐘を打つ胸は気にしないふりをした。