「朔良ー、帰るよー」
音楽室の扉を開けて、声を掛けるが返事はない。此処に来る途中、ピアノが聞こえないとは思っていたけど、ピアノの前に朔良がいない。
「朔良ー?」
ピアノの方へと近づいていくと、丁度ピアノで隠れて扉からは見えない壁に寄りかかって、カーペットに座り込んで寝ていた。
朔良を起こそうと座り込んで手が止まる。私より肌が白い。少しだけ顔色が悪いように見えた。ちゃんとご飯食べているんだろうか。
元々もやしみたいななりをしているとは思っていたけど、なんとなく春休みに入る前より細い気がする。
「ほんとに困った幼馴染だな」
こめかみに手を当てて溜息を零した。それから、肩を揺する。
「朔良、帰るよ。起きて」
「......ん、ふた、ば......? あれ? 俺寝てた?」
「うん、ぐっすり」
「ごめん、帰ろう」
まだ眠いのかふあーと欠伸を一つして立ちあがった。それから開きっぱなしだったピアノを片付けようと彼が手を伸ばす。キーカバーが鍵盤を覆い隠そうとした時、勝手に口が動いていた。
「ピアノ聞きたいな......」
まさか自分の口からそんな言葉が出てくると思わなくて、焦った。自分が思っていたよりも、私は彼を心配していたらしい。此処に来てみれば寝ているし、いつものように本当に弾いていたのか、気に掛った。
でも帰ろうと言った手前、こんなこと言うなんてどう言い訳をすればいい? いや、言い訳してもこんなの絶対にからかわれる。
ピアノの前に立つ朔良の方へ見遣ると、朔良も目を丸くして驚いていた。でも、小さく笑みを零して『いいよ』とだけ、答えた。
覆っていたキーカバーをすぐにまたピアノの上に置き、椅子にゆっくり座り直す。


