恋風吹く春、朔月に眠る君



可愛いって言われてもなあ。手放しで喜べない。世間一般的には可愛いのかもしれないけど、私はこの容姿があまり好きじゃないから。なんて、言ったら彩香だけじゃなく、みんなに怒られそうだから言わない。


「はいはい、ありがとう」

「ほらもう、そうやって流す! 中学の時から結構告白されてるじゃん。付き合ってるのも告白されて付き合ってることばっかりでしょ?」

「いや、三人目違うし。なんか遊び人みたいに聞こえるんだけど?」

「あ、そっか。三人目は珍しく告白しに行ってたねぇ。忘れてた忘れてた。別に遊び人なんて思ってないから! そこは大丈夫!」


何が大丈夫なのってツッコミは面倒から止めておいた。悪気がないのは知ってる。


「いやぁ、でも、長かったし、仲良かったのに突然別れたよね?」


『あれはちょっとびっくりしたなあ』なんて付け足して笑う彩香を見て、表に出さないようにしながらも少し動揺した。

何を動揺しているんだ。ちらつくのはもう此処にいない彼。それを思い出して苦しくなるなんて、私には許されない。私が傷ついたんじゃない。傷つけたのは私だ。


『双葉が本当に好きなのは古館だろ』


悲しそうに、苦しそうに告げた彼が今も鮮明に焼き付いている。彼はどれほどの苦しみと痛みと覚悟を持ってそれを口にしたのだろう。想像を優に超えることなんて分かりきってる。


「あーうん、いろいろあってね」

「まあ、中学生の恋愛なんてそんなもんかぁ。ってそれは高校生も一緒か!」


その後はすぐに話題が切り替わったおかげでなんとか乗り切った。


 誰にも言わない。朔良への想いなんて、誰にも言わない。絶対に。

ううん、あの日彼を傷つけたこんな想いなんて消えてしまえば良いのにって何度も思ったんだよ。私は今でもずっとそう思うんだよ。