恋風吹く春、朔月に眠る君



「今日、さっき聞いた歌を独りごとみたいに言ってて、気になって聞いたの。かりそめのってやつ。あれと同じ意味のこと、木花が好きだった国語の先生も言っていなくなったんだ。だから、あの歌はその先生から木花に向けたものだと思う」

「あれにそんな意味があったものだったなんて.....」

「うん、私も驚いてる。でもね、いろんなことがそれで繋がるの。さっき、夢って言ったでしょ」


私が突然、夢だと言い出したことだと分かったのか、朔良は頷く。


「この1週間夢で何か言われてる気がしてたんだ。朔良に気付いてほしかったんじゃないかって言われて漸く思い出した。夢の中でいつも桜の木があって、どこからか助けてほしいって声が聞こえてくるの。あの桜の木が言ってたんだ。木花を助けてほしいって」


ずっと、大事なことのような気がしていたのに、思い出せなかった。


『助けて。どうか、あの子を助けて。時が来て全てが手遅れになるしまう前に』

『あの子にとって、貴女だけが希望だから。助けてほしい』

『貴女だけが頼みの綱。ごめんなさい。どうか、どうか』

『もう時間がない。助けてあげて。彼が望んだように、彼女が真実に溺れないように。ゆくべきところへ還るために』

『望月から朔月までが彼女の残された時間。朔月に消える前に助けて』

『彼女も貴女も、後悔しないために。気付いて。朔月が近い』

『お願い。今日が最期の日。どうか、思い出して』


夢の中で言われたことをもう一度思い出して、なぞるように呟いた。


「今日が最期の日、なんだって。朔月って新月のことだよね。今日は月が見えないから、新月かなあ」


電車の扉に凭れて空を見上げる。けれど、外の景色は殆ど見えない。鏡に映る自分の顔がとても情けなかった。いつもいつも、後悔してばかりだ。もう何もしないまま後悔するのは嫌だ。それでも掌から零れ落ちていくものばかり。