恋風吹く春、朔月に眠る君



「聞いたことあるような? ないような? わかんないよ」

「覚えてないのも仕方ないのかなあ。この歌の意味はね、今日のお別れは一時的なものだと思いますけど、もしかしたら今生のお別れになる死出の旅かもしれません。そういう歌だよ」


そこまで聞いて、私は何故か聞いたことがあるような気がした。朔良に以前聞いたのは本当かもしれない。でも、それより、私が引っかかっているのはそっちじゃない。


『好きでしたよ。また、会いましょう。でも、もしかしたら今生のお別れになるかもしれません。という言葉だけ残して、随分と経ちました。』


木花が好きなその先生と同じ気がするのは偶然だろうか。胸がざわざわするのは気のせいだろうか。


「去年の春もさ、双葉は同じこと聞いてきたんだよ」


思わず、『えっ!』と大きな声を上げてしまう。


「入学してすぐの頃かな。何故か知らないけど、双葉が学校にある中庭の一番奥の桜の木の後ろにあるその歌を見つけてきたんだよ」


そこまで言われて漸く思い出した。中庭の一番奥の桜の木の後ろに書かれた歌を。どうして見つけたかはもう覚えてないけど、それを見つけて朔良なら知ってるだろうと思って見せたんだ。その時に、朔良が新古今和歌集にある和歌だと教えてくれた。


「ねえ、もしかして、あれを書いた人か、あるいはあれを送られた人にでも会ったの?」


当然の疑問だと思う。多分、その歌はそんなに有名じゃない。あの時のことと結び付けられてもおかしくない。でも、まさか幽霊だなんて言えるわけがない。何と言っていいのか分からなくて、口をもごもごとさせていると、朔良が衝撃的なことを言った。


「もしかしたらその人も死ぬ直前かもしれないよ」

「な、なんで?」

「なんとなく。俺みたいにそういうのが好きな人は勿論知ってるだろうけど、百人一首の和歌じゃないんだから、誰もが知ってるわけじゃない。双葉があの木の歌を見つけて意味を探したように、気付いてほしかったのかなって」


気付いてほしかった。あれ、私、とても大事なことを忘れている気がする。何故だろう。どうして私はそんなことを......。