その時を思い出して、楽しそうに笑う朔良を見て良かったと思った。最初の顔を見て、解決していたんだとは思っていた。けど、ちゃんと聞きたいことが聞けたなら、良かった。
「つまり、小学校低学年以降の横暴さは素ってことだよ。性格悪いよね」
「もーう、お父さんのことそんなに悪く言っちゃったらだめだよ」
「それは一生無理」
まだまだ蟠りはあるんだと思う。でも、歩み寄ろうと思うくらいには話が出来たみたいだ。
「母さん、前妻の話も知ってたんだ。俺が知ってたことは気付いてなかったみたいだけど、気にしなくてよかったのにって言われてほっとした」
「私はあの時聞かなかったことがちゃんと解決しててほっとしたよ。朔良がすごく頑張ったんだなあって、良かったなあって思った」
嬉しくて、もう一度『良かった』と零すと、朔良にじっと見つめられた。
「なに?」
「なんか、やっぱ、そういうとこ好きだなあって思って」
この流れでまたそういうことを言う。今日、何度もそうやって心を揺らされてるのに、なかなか慣れそうにない。
「流石だよね。天然たらしってこわい」
「えーっ、褒めたのに酷いなあ」
まだ文句の続きを言おうとする朔良の言葉に被せるようにして『それよりさあ』と話題を変える。これ以上そのネタ引っ張られたら私は死んでしまう。
「かりそめの別れとけふを......なんとかって歌知ってる? なんか和歌っぽいんだけど」
木花に『桜の樹の下には』という話を教えてもらったことを聞いて思い出したんだ。今日、寝ぼけてた時に聞いた和歌のこと。朔良なら知ってるかもしれないと思ったけど途中までどころか、上の句も全部覚えてないうろ覚えだ。諦めかけつつ聞いたのに、朔良は心当たりがあるのか驚いた顔をした。
「知ってるも何もその歌って.......」
「えっ、えっ、なに、知ってるの?」
「『かりそめの 別れとけふを 思へども いさやまことの 旅にもあるらむ』って聞いたことない?」
憶えてないの? とでも言いたげな顔に竦む。朔良が話したことある歌なんだろうか? でも、朔良が偶に語る話は難しくてよく覚えてないものばかりだ。覚えるのには無理がある。


