恋風吹く春、朔月に眠る君



「そんなに変だったんだ」

「うん、ずっと引っかかってたよ。何が言いたかったんだろうって」

「そっか。まさか覚えてると思わなかったから、今わざわざ掘り起こして話さなくてもいいかなと思ってたんだけど」


その顔は本当に何とも思ってないという顔で、朔良の中ではすでに解決されたものなのだろうと思った。でも、急に神妙な面持ちになったかと思えば、話し始めた内容は衝撃的なものだった。


「俺にはさ、年の離れた義理の姉がいるんだ」

「えっ、待って、そんなの聞いたことない」

「言ったことないからね。流石に父さんの前妻の娘の話なんて、母さんの耳に入ってほしくなかったから」

「前妻の娘......?」

「母さんより父さんの方が5つ上なんだよね。だから、母さんと出会うより前に、若くして結婚して里桜(リオ)って名前の娘がいたらしい。すぐに離婚したらしいんだけど何度か会ったこともあるみたいだった。でも、俺が生まれる1年前に交通事故で亡くなったんだって」


それは全て朔良のお父さんの書斎にあった手紙に書かれていたらしい。私は知らなかったけど、朔良がいない間にお父さんは何度か家に帰って来てたみたいだ。仕事で急いで戻った際に開きかけになった扉を不審に思って中に入ると、仕舞い忘れた義姉からのいくつかの手紙と、亡くなったことを知らせる母親の手紙が一つ、あったのを読んでしまった。

何度も読み返されたらしいその手紙は折れ目が少し破けて、涙の跡もたくさんあったそうだ。きっと、とても悲しかったに違いない。それくらいには父親としてその子を愛していた。おばさんは知ってるかもしれないけど、聞きづらくて誰にも言わなかったと朔良は話した。


「天才ピアノ少女って言われてたらしいよ。学業も疎かにせず、成績は良かったらしい。自分の目標に向かって努力し続けることが出来る人だった。離婚してたとは言え、誇れる娘を俺の中に見てたんだろうなって思った」

「で、でも、証拠があるわけじゃないんでしょ?」

「ないよ。母さんは予定日が桜の季節だって分かったから父さんがつけたんだっていつだか学校の宿題で出された名前の由来の話で話していたからね。何も証明はない。でも、朔良ってつけた理由は絶対にその里桜の名前から取ってるに違いないって思ってしまった」