恋風吹く春、朔月に眠る君



「私が朔良がいいって言ってるのに適当なこと言わないでよ」


思わず詰め寄って怒ると、次の瞬間、笑われた。今度はなんだ。全然展開についていけない。


「嘘だよ。でも、双葉が宇津井君と別れた時、俺のせいじゃないかなって思ったのは本当。やっぱりそうだったんだね。あの時、次は双葉の邪魔しないようにしようって思ってたんだ。次に双葉が好きな人ができたら今度は応援しようって。だから、双葉を頼ってばっかりじゃだめだなって、遠ざけてたのもある。春休みの間、結局頼って迷惑かけたけど」


朔良のトーンが落ちる。こうして話してみるといろいろなことが分かる。朔良もいろいろ考えてたんだ。私のこと振り回してばっかりで何も考えてなかったわけじゃなかった。そして、やっぱり司は良い人だ。謝ることがいっぱいある。でも、謝っても自分が悪いって言いそうだから、今度会ったらありがとうって言おう。


「あっ、でも、もう手放す気はないからね。宇津井君みたいに譲るほど俺はお人好しじゃないよ」


なんか開き直ったみたいだ。いつもの私を振り回す態度が加速してる。


「うん、手放さなくていいよ」


心からそう思って言ったのに、朔良は狼狽えたように驚いた。


「殺し文句だなあ」

「ええっ、そんなつもりじゃなかったんだけど」

「うん、性質悪いよね」


はあ、と大袈裟に溜息を吐く。何を言ってるんだ。朔良の方が私よりずっと性質が悪いよ。さっきまでの所業を忘れたのか。


「それでさ、話戻すけど宇津井君に双葉が好きなのは俺だよって言われてどう思ったの?」

「その時はよく分からなかったよ。一方的にそうだと決めつけられて別れられたから、戸惑いの方が大きかった。でも、暫くして意味が分かった」


司への好きは憧れだったと気付いた。司がどれだけ想ってくれていたのかもわかった。ショックで悲しかった。なかったことにしたかった。他の人が好きだなんて誰にも知られたくなかった。自分の醜さに溺れて苦しかった。そう伝えると朔良は『そっか』とだけ言った。


「それに、朔良は楓が好きだと思ってたからね」

「えっ、それは初耳なんだけど」

「だって、いっつも楓、楓って楓といる方が楽しそうだったし。中学の時、楓に告白してるとこ見たし」

「それ誰?」

「誰って朔良だよ」