恋風吹く春、朔月に眠る君



普段自分のこと、お父さんのこと、全然話したがらなかったのは自分を知られるのが怖いから。知られるのが怖いのは幻滅されて、嫌われるのが怖いから。今更幻滅も何もないよって自分が聞く側の人間だったらはっきり言えるのにね。どうも上手くいかないその気持ちは痛い程よく分かる。私も同じようにずっと考えてた。


 朔良は生まれた時から一緒にいるけど、基本的によく分からないやつだと思ってた。いつも難しいことを言って、私を振り回して、それが当然のような顔をする。腹立たしくもあったけど、ごめんごめんってご機嫌取りをするからいつも許したくなってしまう。でも、案外、私と同じようなことを考えて悩んでたんだ。


「嫌われるのが怖かったのは私も同じだよ」


朔良の方に手を伸ばし、抱きしめると朔良も抱きしめ返してくれた。私を包む体温が心地いい。


「良かった。話して良かった。もっと早くこうしてれば良かった。ずっと昔から、好きだったのに手に入らないと思ってたから。でも、そういうのやめる。欲しいものは欲しいって言わないと手に入らないから」


噛みしめるような言葉が耳元で響く。


「ねえ、もう自惚れてもいいよね?」


嗚呼、きみは全て知っている。そして私も知っている。それでもいい。解っていても答え合わせがしたい。きみの言葉が欲しい。じわりじわりと広がる波が私の体温を広げるようだ。抱きしめる手が緩んで、私の肩を掴んだ手が朔良との距離を作った。その代わり、朔良と目が合う。優しく細める目に捕まったみたいだ。目が逸らせない。


「俺は双葉のことがすきだよ」


薄い唇から零れ落ちた一番欲しかった言葉。ずっとずっと、願って止まなかったもの。でも、絶対に手に入らないと思ってた。昂る感情に歯止めが効かなくなって、熱くなった感情は頬を伝って零れ落ちる。今度はうれし涙だから許してほしい。落ち着けるように深呼吸をして、大事に大事になぞった。


「わ、わたしも朔良がすき」


言い終わると同時に距離が縮まっていた。涙が伝った跡のある唇に熱が伝わる。驚いて固まっていると、ゆっくり朔良が離れた。


「しょっぱいね」


自分の唇を舌でぺろりと舐めた朔良が笑う。なんでこんな余裕な顔して恥ずかしいことできるんだ。私は全身の血が沸騰するように熱いのに、朔良は楽しそう。