再びしっかりと私を見つめる双眸には意志の強さが感じられた。何かを決めたような、吹っ切れた顔だった。
「それでケジメをつけに行ったの?」
「そう、簡潔に言うとね、父さんのところへ行ってた。この前、双葉が見た通り言い合いした後、父さんは仕事で単身赴任先に戻ったんだ。それで会いに行ってた」
朔良の行動力の高さに驚いてしまう。一人で抱え込んで、どうしようもなくなって、縮こまっていた私は木花に背中を押してもらって漸く自分という檻から自由になれた。でも、彼はもっと前を行っているような、そんな気さえ感じられる行動力に茫然とする。
「今まであの人に話が通じるわけないって思って話してこなかったこと、話し合って来た。そうしたら、知らない世界があった。伝えるって、聞くって、簡単なことなのに、難しいんだね。まあ、今更仲良くなろうなんて気は一切ないけど」
ほら、やっぱりきみは前を行く。仲良くなろうなんて気はないって話すけど、さっきから『あの人』じゃなくて『お父さん』って呼んでること気付いてないのかな。それだけで私は2人の未来が少しは希望の持てるものと想像してしまうよ。それが涙が出そうなくらい嬉しいのに、どうしてこんなにも心は晴れないんだろう。
「将来のことも話つけてきた。自分のしたいようにするって。でもやっぱり、今までみたいにテキトーやってたら許さないって言われたから、このままピアノの道を選ぶのか、或いはもっと別のことをするのか、真面目に考える」
精悍な表情が遠く感じる。漂う空気がいつの間にか重くなったように、肺に入る空気が苦しい。喋ってもないのに口の中がからからに乾いて思わずグラスを掴んでお茶を大きく一口、飲み込んだ。カラリと、氷が鳴る。
「取り敢えず、もう少し真面目にピアノ頑張るよ」
やっぱり朔良は一人でも胸を張って歩いていける人だ。きっと、お父さんとの関係だって自分でどうにかする。そういう力を持っている。でも、同時に追いつけないことに焦る自分がかっこ悪くて仕方ない。もっと、心から賞賛出来たら良かった。そういう心が欲しかった。
「......そんな思いつめた顔しないでよ」
悲しそうに朔良は私の頭を撫でる。それによって、思考は中断した。


