一度も聞いたことのない気持ちは私の所為で闇を落としていたもの。優しい朔良が、元気づけたくて一生懸命な私の言葉を否定はできないだろう。私の一生懸命な言葉がきみを傷つけていたなんて、なんて言葉は難しいんだろう。思った通りには届かない。
「俺はすぐ楽をするから、頑張るのは苦手なんだ。頑張っても手に入らなさそうなものは尚更頑張りたくない。だから、今までもそうしてきた。ピアノは好きだけど極めるつもりはなかった。学校も一生懸命勉強しなくても受かる学校が良かった。でも、双葉を目にすると、そういう自分の適当さを痛感する。頑張らなきゃいけない気がする。だから、一緒にいたかったけど、目を逸らしたくもあった」
遠いところを見て話す朔良は思い出して苦しそうだった。そんな風に追い詰めてたなんて思いもしなかった。負い目を感じていたのは私だけじゃなかった。私の言葉を受け取ってくれなかったのは、自分の言動と目を逸らしたいものへの葛藤がそうさせていたんだね。
「そういうこと全部父さんは見透かしてたんだ。あの人は厳しい人だから、俺の適当さとか、見たくないものに蓋をする狡さとかが許せなかったんだと思う。でも、そうやって見透かした気になって、お前はやる気のない人間だから俺が確実なレールを引いてやるって感じの言い方が大嫌いだった。そういう反骨心だけは人一倍あったから、やりたいこと殆ど押し通してきたけどね」
ははっと冗談を言うようにおどけて笑うけど、私は笑えなかった。朔良は朔良なりに一生懸命だった。確かに楽をしたかったのかもしれない。でも、朔良なりに折り合いをつけてその隙間で必死に平気なふりをしてたこと、私は知っている。彼の努力を知っている。
「でも、父さんが怒ってた理由、今なら分かる。楽をして適当にしたこと、見たくないものに蓋をしたこと、それが自信のなさの裏打ちになって双葉をずっと傷つけてきた。自分のことばかりで双葉のこと、何も見てこなかった。双葉が俺のためにかけてくれた言葉も全部突き返してきて、信じて欲しかったって怒られて、漸く目が覚めたんだ。双葉をこれ以上傷つけないために、何より向き合うために、その前に自分の弱さを向き合わないとまた同じことを繰り返すと思った」


