恋風吹く春、朔月に眠る君



体調不良って学校には伝えたくせに、何も言わずにどこでなにをしてたんだろう。そんな不満がぽつりと零れ落ちるみたいに無意識に声にしていた。


「ごめん、急遽だったから」


それを察した朔良が申し訳なさそうにする。やってしまったと謝ろうとした時、杏子が声を上げた。


「じゃあ、私は帰るね」

「えっ!?」

「棗たちのご飯作らないといけないから」

「あっ、そっか......」


いやでも、いなかったら愚痴に付き合ってくれるって......。あ、いたから問題ないのか、などとズレたことを考えている間に話は進んでいく。


「双葉も朔良くんも詳しい話は明日聞かせてね。じゃ、ばいばい」

「ああ、うん......杏子ちゃんありがとう」

「ば、ばいばい」


風のように去った杏子の後ろ姿を朔良と二人で見送る。すると、朔良は横で大きなため息を吐いた。


「あーあ、借り作っちゃたなあ」


その言葉で漸く理解した。杏子は私達がゆっくり二人で話し合えるように帰ってくれたんだ。すっかり、杏子に頼りきりになっていた。しっかりしないとだめだ。


「取り敢えず、中に入る?」


少し困ったように、気まずそうに、朔良は提案してくれた。それに頷いて中に入る。朔良と同じ匂いがする家の匂いに安心した。


「先に部屋に行ってて。お茶持ってくから」

「ありがと」


階段の前で朔良と別れて、朔良の部屋へと向かう。でも、先に着いても落ち着かなくて、じっと座っていられなくて暫く立っていた。そこではたと気付く。部屋に置かれた旅行カバン。そんなに遠いところへ行っていたのだろうか。


「あれ、座ってくれて良かったのに」


開いた扉から朔良がお茶を持って戻ってきて、吃驚した。そして、いつもなら言われないセリフに自分の落ち着きのなさを自覚して恥ずかしくなる。


「ああ、うん......」


上手く返事もできないまま、ローテーブルの前に座った。なんで、朔良は普通にしていられるんだろう。どうしていいか分からないのは私だけなのかもしれない。テーブルに並べられたお茶を手に取って一口飲む。朔良も座って少しの沈黙が落ちた。それを破るように口を開く。