恋風吹く春、朔月に眠る君



「ごめん! 遅くなって」


息を切らした様子の杏子は教室に入って途端に膝に手をつき、呼吸を整える。私を待たせているからと全力で走ってきたのだろう。


「気にしなくて大丈夫だよ。落ち着いたら帰ろう」

「ありがとう」


一息ついて、杏子が落ち着いた頃、学校を出た。久々の一緒の帰り道を楽しみながら帰る。朔良のことを考えると緊張したけど、杏子が『朔良くんがいなかったら愚痴付き合ってあげるから』と言ってくれたから割と元気だった。

でも、そんな時間が続くわけではない。私の家はもうすぐそこ。ということは、朔良の家も近い。鼓動が主張するように体に響く。意識的にふーっと息を吐き出して落ち着かせる。先に杏子の足音が止まった。私も止まる。見上げると朔良の家の前だった。


「いるのかいないのか分かんないね」

「まだお昼だからね。電気つける時間でもないし」

「まあ、インターホン押せばわかるよ。さあ、押して。ゴーだよゴー!」


鞄を引っかける右手に拳を作って上に掲げる。なんで、そんなにテンション高いの。そんなツッコミを飲み込んで、私はインターホンの前に立ち、唾をごくりと飲む。右手の人差し指をゆっくり近づけて、嚙みしめるように押した。


「はい。あれ、双葉ちゃん? どうしたの? 嗚呼、朔良かしら? 今ここにいるから出てもらうわね」


驚きすぎて口を開いたまま、何も言えなかった。流石に失礼だったと思う。でも、まさか、おばさんがいると思わなかった。朔良もいるって、どういうこと? 昨日いなかったのはその時間にいなかっただけ? 

杏子の方を見ると、杏子も驚いた顔をしていた。口パクで『どうしたらいいの?』って聞くと、『私にしたように言いたいこと言ったらいいんだよ』って当然のように言われてしまった。そういうのを期待したわけじゃないんだと戸惑っていると、ガチャリと音を立てて扉が開いた。


「おはよう、って時間でもないか。あれ、杏子ちゃんまで来てたんだ」

「双葉が学校は体調不良で休んでるのに昨日家行ったらいなかったしメッセージも既読付かない、どうしようって言うからだよ」

「嗚呼、それはごめん。昨日の朝から出掛けてて、充電器忘れてスマホの充電切れてた」

「やっぱり、出かけてたんだ」