恋風吹く春、朔月に眠る君



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春の太陽はどうしてこんなに眠いんだろう。誰もいない静かな教室はちょっぴり寒い。だけど、日が当たる窓側のこの席は陽の光の温かさが丁度いい。放課後、授業が終わったらすぐに朔良の家へ向かうはずだったけど、杏子が職員室に呼び出されてしまった。時間が空いたから木花の元へ行こうかとも思ったけど、眠気に負けて日向ぼっこ。多分、あまり眠れていないせいだ。少し寝て、時間があったら木花のとこへ行こうと、机に置いた鞄を枕にして転寝していた時だった。


「かりそめの別れとけふを思へどもいさやまことの旅にもあるらむ」


声が聞こえた。悲しい、声だった。ああ、また夢を見ている。きっと、これも忘れてしまうんだ。でも、いつもと違うなと思った。いつもとは何かと聞かれれば分からないけど、なんとなくいつもと違うなと思った。

それより頬に当たる物がなんだか痛い気がする。身体もなんだか硬くて.....と、そこではたと気付いた。夢じゃない。閉じた瞼をゆっくりと開ける。夢と現の狭間でふわふわとする意識が漸く覚醒した。


「.......あれ、このはな.....?」


顔を上げると丁度目の前に木花がいた。私と同じように木花も驚いているようだった。


「おはようございます。転寝とは珍しいですね」


すぐに彼女は柔らかな笑みを浮かべる。さっきの声は木花かと思ったけど違ったのだろうか。何と言ったのか、よく覚えていない。


「そうかな。最近ずっと夢を見ちゃうせいで寝られなくて。睡眠不足なの」

「夢、ですか......?」

木花は首を傾げて訝しそうな顔をした。その後、すぐに少し驚いた表情をしたように見えたのは気のせいだろうか。


「なんでしょうね。夢を見ずによく眠れるといいのですが」

「まあ、今日は早く寝るよ。それより今日はどうしたの? 木花から会いに来てくれるなんて久々だね」


言ってすぐに、久々なんて言い方はおかしいか、と思った。木花と出会ったのはほんの二週間前だ。でも、随分と昔から知っているような気分。不思議なことだ。


「別に何もないですよ。強いて言えば、彼のことでしょうか。お話されていたところを丁度通りかかったので聞いてしまいました」


木花はとても心配そうに私の方を窺う。