少し歩いたところにある土手で杏子を見つけた。枝から零れ落ちて川に浮く花弁を見つめる杏子が、丁度溜息を吐くのが見えた。ゆっくり近づく。隣に座ろうとして、その前に一番大切なことを先に言われた。
「ごめんね」
驚いて固まる身体。すぐに言葉が出なくて困った。それを言わないといけないのは私の方だったのに。
「私の台詞取っちゃだめだよ」
迷った挙句に出てきた言葉なんてそんなもので、情けない。私の言葉を聞いた杏子は私の方を振り返り、見上げる。
「話しに来てくれたんだよね。結局、私が言わせる状況にしてしまった。だから間違ってないよ」
「それは違うよ。私はもっと早くに言わないといけなかったの。私が臆病だっただけ。信用されてないなんて思わせてごめんね」
友達だからってなんでも話せるわけじゃない。誰にも秘密にしてること、言いたくないことっていうのはきっと、誰にでもある。でも、その秘密が壁を作ることだってある。そういうことに疎いまま、私は杏子と壁を作ったんだ。
杏子の隣に立ち、座り込む。顔を覗き込むと、双眸がいつもよりきらきらと光っている気がした。杏子はじっと私の目を見て、ばっと視線を逸らす。
「私ね、朔良のことが好きなの」
初めて言葉にして吐き出したそれが心臓をぎゅっと締め付ける気がした。誰かに言ったのって初めてだ。言霊のように実感させられる。どうしようもなくきみがすきなこと。
「ずっとずっと前から好きだった。でも、司が言ったことを本当にしたくなかったから。幼馴染の関係を壊したくなかったから。朔良は楓のことが好きだから。いっぱい目を逸らしたいことがありすぎて、逃げたかったの。無くしてしまえばいいって。だから、誰にも言わなかった。
でも、もうそんなのやめる。もう逃げないから、私の話を聞いてほしい。喧嘩しちゃって、どうしたらいいかわかんないの」
杏子にはちゃんと伝えなきゃって思って、一生懸命言葉を考えたら、鼻がツンとしてきた。目が熱くなって、瞬きの隙間で涙が零れ落ちる。
それを見た杏子は少し口を開いて驚いた顔をした。でも、すぐにばっと両手が伸びてきて、その腕が私の身体を包む。
「うん、聞くよ。朔良くんと喧嘩って吃驚した。どういうことか聞くから、ゆっくり話して」
その声が涙声になっているのに気付いて、さっきのきらきら光るものの正体が分かった。私、本当は心配してくれる友達がいたんだね。何も見てなかったことを今、すごく痛感する。


