恋風吹く春、朔月に眠る君



確かにまさか、杏子が司から話を聞いているとは思わなかった。私さえ黙っていれば、杏子に知る術はないだろうと高を括ってさえいた。だけど、信用を損ないたくないのなら、私がもっと早くに言うべきだったんだ。それは司が言ったから起こったことなんかじゃない。


「ううん、司はなにも悪くないよ。余計なことに巻き込んでごめんね」

「違うんだ。双葉が誰かに相談するとか苦手なことくらい分かってたんだ。俺が狡かったから、追い詰めて双葉が一番苦しい道を選ばせたんだよ」


苦しそうに顔を歪めた司を見て、思わずその頬に手が伸びた。君はとても優しい。ずっと、私のこと心配してくれてたんだね。

昨日、相談する友達もいないと思った私はなんて愚かだったんだろう。ちゃんと此処にいたんだよ。私が塞ぎ込んで何も見ないようにしていただけで、司も、杏子も、私のこと心配してくれてた。

あんな風に別れを告げられて悲しかったけど、私が朔良を好きなことに気付いてた君はもっと悲しかったはずなんだ。なのに、なんでこんなに優しいんだろう。

私が心の底から君を選べていれば。そんなこと何度も考えた。でも、それは司にも失礼だから。だから、優しい君に好きになってもらったことを誇りに思おう。


「ありがとう。心配してくれて。好きになってくれて。でも、もう自分を責めなくていいよ。私も狡かったの。だから、いいんだよ」

「.......双葉は強いな」


零れ落ちた言葉と一緒に、頬に添えた手に重ねられた手が温かかった。そういえば、司の手はいつも暖かかったね。でも、昔よりごつごつとした大きな手が別れてからの時間を表すようだった。


「ははっ、強くないよ。司の優しさに甘えてばっかりだよ」

「うん、そういうところ。一人でも明るいところを真っ直ぐ歩いていけそうだからあいつも自信がないのかもな」

「へっ? どういうこと?」

「さあな。それより杏子のところ行ってやれよ。子ども達置いて遠いところ行ったりしないだろうし、そろそろ頭冷やしてる頃だろうから、近くを探せばいると思う。俺は子ども達見てるし」

「そうだった、探さなきゃ! 司、ありがとう。仲直りしてきたらまた話聞いてね。迷惑かもだけど!」

「はいはい、迷惑じゃないから大丈夫」


手をぷらぷらとして面倒そうに送り出すから『全然大丈夫じゃないじゃん』と文句を言いながら杏子を探しに公園を出た。中にはいないように見えたから、きっといるなら公園を出た近くだ。と言っても、何処にいるんだろう。